puffpuff0001 年金生活者のブログ 雨のち晴れときどき竜巻

年金生活その他についての考察あれこれ

出会った人々 (23)



当時の私は20歳を過ぎていたが、経験も想像力もなくて、Rちゃんの気持ちに寄り添うとか、分かち合う事がなかった。
ただRちゃんの裏表のない優しい人柄が好きだったので、どうしてそうなるの? と思ったが,直接本人から聞いてないせいか、それ以上に思う事もなかった。
私はRちゃんが好きだから、たとえ周りの人達がRちゃんを少しでも悪く言ったり、良く思わない人達がいるとしても、今の私なら、Rちゃんに替わって言いたいことが沢山ある。


ある時、母と市場を歩いているとRちゃんから声をかけて来た。両手いっぱいに食材を持って相変わらず優しく笑っている。母と私はRちゃんに気が付かない筈だ。
あまりの変貌にただただあっけにとられてしまった。
その後、母からRちゃんの事情を聞いた。今思い出すだけで、腹が立つし、悔しい,哀しい。
まず周りの人にRちゃんの毎日、毎日を見てご覧と言いたかった。
朝早くから、夜遅くまでひたすら働いているじゃあないの?
Rちゃん自身は二人が失職した理由,結婚した経緯、相手の別れた奥様と子供達の生活費と養育費、父親の役目がある事も、自分の両親が泣いてすがるのを振り切って実家を出た事も、自分の子供を両親に預けて出てきた事も,これから先の自分たち二人の生活費の心配、、、、の何もかも承知しての上で結婚したと思う。
だけど、だけどそれはRちゃんが心の中に納めて思う事であって、他の人に言われたくないと思う。
だからRちゃんは全ての事情を私の父、母にしか話さなかったと思われる。


やはり最初が肝心だった、Rちゃんの優しさに誰も彼も馴れてしまって、当たり前に日常化してしまった様だ。言葉に出して言われないとわからない人達になってしまった。
子供達が自立しないと困るからと、父親としてしっかり養育に励み、二つの家族の間を堂々と行き来する様に? 不思議な? どうなっているの?
初めからみんなわかっている事ばっかりだった。最も深刻なのは経済的な事情だった。
当時食材の種類は、産直、旬の物ばかりだから自宅で食べられる様なおかずで、お客はわざわざ出かけて来ない。気の効いた、珍しい物が食べたいし,しかも安く量、質も問われる。
『定食屋』は献立に絶えず知恵を絞り、気の休まる時がない。しかも薄利多売を目指さねばならない。


そんな時に『何の為に、結婚したかわからない、、、、』とRちゃんのご主人様がのたもうた?
Rちゃんの一番身近にいて,働かねばならない理由を彼自身が一番わかっている筈だった,暗黙のうちにお互い理解していた筈ではないの?
まさか言葉に出して言わないとわからないの?
一番言ってほしくない人から、一番言ってはいけない事を、さらりとのたまわれてしまった、、、、。
その一言はRちゃんを打ちのめしてしまった。
その時も、その後もご主人様はじめ誰も彼もRちゃんがご主人様の一言で心に深い傷を負った事すら、思いめぐらす事もなかった。
Rちゃんにはわかっていた,朝食、夕食も一緒に食べられない生活、早朝から深夜まで働きずめの生活で二人でお茶を飲んだリ、話す事も出来ない生活を、ご主人様が一人で寂しい食卓に付く事の出来ない人である事も、何処かで、誰かと食事をしているのも、、、、。


『定食屋』はそこそこに繁盛していたらしいが、数年で閉店する事になった。
Rちゃんの気力、貯金も無くなった。
開店の為に要した敷金、権利金、礼金、改装費、維持費、月末の支払い、赤字補填は全てRちゃんの貯金から出していて、Rちゃんは『すってんてん』になってしまった。
Rちゃんはやれるだけ精一杯頑張ったのだろう。意外にもほっとしたと言うか、さっぱりとした顔をしていた。
しかし『売上金』はどこへ行ったのだろう?。
Rちゃんは何も言わない、だから誰も知らない。そんなんでいいの?


女性の職場は余りない頃で、Rちゃんは元手の要らない保険のおばちゃんになった。この仕事が出来る人は何でも出来ると言われる位、きついノルマ優先の仕事だ。
休憩時間,休日をねらっての営業だから歓迎される事は先ずない。 人々は目の前の生活が精一杯で一般の人の保険に対する意識は、殆ど皆無だった。
一生懸命働いていた様だが、家計は収入を上回る支出で火の車だったのだろう。今度は昼は保険のおばちゃん、夜はSnackを始めた。
人を使っての仕事だから、苦労が多いし何より寂しがりやのご主人様は如何? と思いきや、夕食を食べる所も、ともにする人もすぐ見つかる性格の人で,違った意味で心痛の種だった様だ。
ご主人様は見た目は普通の熟年のおじさんで、私からみて何処が魅力的なのかさっぱりわからないが,常に女性の影?、、、が。
それでもRちゃんはお金を必要としていた。Snackの仕事は深夜に及ぶ、Rちゃんの心中や如何に?
Rちゃんが夕食の準備が間に会わなくて、ビフテキや焼き肉、刺身等を数日続けて出したら『俺を殺す気か?,、、、』と家を飛び出して暫く帰って来なかったそうな。
和食の好きなご主人様の事を忘れた訳でないが、二つの仕事を持つと手を抜いてしまうと泣いていた。
ご主人様の三人の子供達が自立する迄と、別れた奥様の生活と、自分達の生活と、、、。聞いて泣きたいのはこっちだ。
『何の為に、結婚したのかわからない、、、』とRちゃんに替わって言い返したい、泣きわめいて、放り出してしまいたい、全く、、、。
Rちゃんは三度家出して我が家に滞在したが、ご主人様は一度も迎えに来なかった。
Rちゃんは『Mちゃん、人の旦那様を好きになったら駄目よ。人を不幸にして、幸せになれない、、、』の様な事を私に話して帰っていった。
なかなかご主人様の性格は治らなかった様だ。
Rちゃんは、彼の三人の子供が自立するのを見極めてSnackをやめて、保険の仕事だけは続けていた。