お金の話(15)
昭和41年=1966年 陽射しが柔らかく春めいてくると、身体が軽くなって理由もなく家から出かけたくなる。
借家は外観に資金を費やしたと思われる日本家屋で、屋根は和瓦屋根で、玄関はそれなりに、道路に面した部屋は格子がはまっている。周りはレンガの塀で囲ってある。
建築された当時は結構見栄えがしただろう。家全体に雨、風対策に通常より庇の奥行きが深い。
家の中は資金が底をついたのか、建具は入ってない。その他も、、、。
玄関を開けると迎える人の顔が外の明かりでようやくわかる位、訪ねて来た人の顔は逆光でさっぱりわからない、足下は土呂が凸凹に固まって、つまずきそうになる。電気が引いてない。
夜、訪ね人でもあれば先ずは部屋に上がって貰わないと話にならない。築後何十年も手入れしてない様で勿体ない。 どの部屋も庇が深過ぎて、昼でも暗いのが難だ。
初秋、気候がしのぎ易くなって用事もないのに遠出して、見てしまった!『クレオパトラ』のポスター。あのエリザベス、テイラー!
『若草物語』に出ていたエリザベス、テイラーは十代初めだったと思うが美しいと言うより
私は綺麗と言いたい、その綺麗さと言ったらずば抜けていて、ゾクッゾクッ衝撃だった。
彼女が好きと言うより、彼女がどんな役をどんな風に演じるかが最大の関心事になったし、楽しみになった。
『花嫁の父』『陽のあたる場所』『ジャイアンツ』『熱いトタン屋根の猫』『バターフイールド8』を見て、『この役は彼女でないと、絶対この映画は完成してない』と思い込むほど熱の入れ様だった。
彼女は新しい映画に出る度に新しい境地をみせ、綺麗さが増して、風格が出てきた。
映画は一人で見ないと面白くないし、楽しくない。毎回、彼女の映画を堪能した。
数日、映画館の前を行ったり来たりした。350円~かな? 随分考えた、2日分(?)の食費は大きくて映画館に入る決心がつかなっかったのだ。他でもないエリザベス、テイラー。
ウイークデイの真っ昼間、入館。本当に久しぶりの映画、始まる前から気分が高揚して居るのに、予告編がだらだら、、、。
映画館でしか、絶対味わえないあのパノラマ、サウンドそしてスペクタルの大迫力!。
だから映画は止められない。エリザベステイラーは風格に、更に貫禄が加わって、クレオパトラの自己陶酔型の面がよく出ていたかも?、、、、。
『アラビアのフロレンス』『ドクトル、ジバコ』、、、。
あんな映画は今も製作されているのだろうか?
秋も深まった頃、手術のため入院、また実家に帰った。