『足湯』と雑感(4)
その日はいまにも雨が降り出しそうな天気だった。
いつもの様に『足湯』に行って、帰りは途中下車して用事をすませたいが、天気が気になった。
バスの停留所に着いた時にはバスが出発したばかりなのか誰もいない。
三つあるベンチの一番端に座ってバスの来る方を早く来ないかと見ていたら、いきなり気配がする。
振りむくと、至近距離に男性の顔が飛び込んで来て驚くと同時に何故隣に?
それも他のベンチは全部空いているのに?
目の前の幹線道路ではひっきりなしに自動車が行き交う、こんな時に限ってこちらの歩道も向かい 側の歩道にも人影がない。
何か変、、、? 自分が緊張してくるのがわかる。周りの風景が遠くに遠くに、物音、自動車の行 き交う音など全く聞こえない。
私は相手の顔から目を離す事が出来ないし、足は根が生えた様にびくとも動かない。何としても
席を立とうとするのだが、、、、
すると男性の動きの方が早かった、さらにぴたっと身体を寄せて来た。
もう、相手の身体の動きが解る位だ。
変どころか、恐怖だ、目が離せないまま見ていると男性は車道の方を向いたまま話し始めた。
大体の内容は『自分は以前この市に住んでいたが、仕事でN市に移った。年をとって持病があって
仕事が出来ん事になった。またこの市に戻って来た。もう、お金がなくて飯を食っとらん。
腹ペコペコなんで、焼き飯食う金をくれ』と言うことだった。
聞いて呆気にとられた。
間があって考えてもいなかった言葉が口から出た『私も持病があるので今からお医者に行きます。 他所で頼んで下さい』言い終わる前に相手は居らなくなった。
気が付いた時は隣に座っていたが、来たのも去るのも早い事!
随分長い時間だったと思えたが数分間の出来事だったろう。
65歳前後かな? 体格のがっちりした健康そうな、顔色の良い男性だった。
当分何もする気なし、早く忘れたい。