puffpuff0001 年金生活者のブログ 雨のち晴れときどき竜巻

年金生活その他についての考察あれこれ

テレビ小説『花子とアン』(13)



冬服に替わった頃、お弁当を食べ終って顔を上げると彼女と目が合った、いつもの様に優しげな目  をしていたが突然『映画好き?』と聞くので、『好き』と答えた。
彼女はそれ以外何も言わなかったし私も言わなかった。
数日経ってコートの季節になったある日、『映画行く?』と聞くので『行く』と答えた。
彼女はいつも、誰にでも優しげな目をして、少し微笑んで挨拶をして静かにしている、私の方も聞か  れた以上別に話す事はなかった。
後日、突然『今度の日曜日、礼拝が終わったら、1時△△電停で待っているから、いい?必ずコート を着て来てね』


彼女とはほとんど話した事が無かったし半信半疑で指定の場所に行くと、彼女は私を見て『ふふっ』
と笑って歩き始めた。本当に映画を見るんだと思うとスキップしたい気持ちでついて行く。
場末の人通りの無い飲屋街を突き抜けて映画館に着く、彼女が切符を買うので私も買って入館する。
座る席もないほど人が多くむウ~とする空気、汗、脂かアンモニア等の匂いでむせる様だった。
何よりも通って来た道をまた帰るのは、怖いなあ~と思ったり、彼女がこの様な場所を知っているの が不思議だった。


映画が始まった。あの横長のシネマスコープ! もう、驚いたの何の、、、。
カラーのきれいな事! 大きな画面! 左右から響く音楽! テーマ『風とともに去りぬ』
私の頭の中はぶち切れ、何もかもどうでも良かった。 映画はこんなに楽しかったんだ!。
それから時々2人で映画に行く様になった。 
だからと言って2人で話したりする気はお互いなく、彼女は相変わらず変わる事がなかった。
変わったのは私で彼女との約束の無い週は、帰省して映画を見た。
私の住んでいる市には映画館が5軒あって、勿論正月は映画漬け。



3学期の学年末試験が終わって、高校最後の進路別クラス編成の話題もぼちぼち、、、。
彼女と私の映画鑑賞は自然消滅した。
春休み帰省していたら、伯父が来て私の顔を見るなり「Mちゃん、そんな顔をしている様では勉強が 足りん、受験生の顔でない。某大学に行かれないよ』と言う。誰が行くって?
伯父は何故か知らないが上場企業の会社を辞めて公認会計士を目指して妻子を抱え浪人をし、やっと
合格したばかりだった。
伯父は小さい頃から私を気にかけてくれていたので、憂鬱になった。
家に居っても碌な事はないと早目に寄宿舎に帰った。
待っていたのは、舎監先生の出頭命令だった。